| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-546

飼いならされたアリモドキゾウムシは繁殖競争に有利か? −大量累代飼育系統と野生系統での交尾行動の違い−

*城本啓子,熊野了州,栗和田隆(琉球産経),原口大(沖縄病害虫防除セ)

天敵の生産や不妊虫放飼法において昆虫の大量増殖は必要な技術である.しかし,大量増殖は室内で長期間・高密度下での累代飼育によって行われるため,野外とは違った選択圧がかかることが予想される.例えば,人間が飼いやすくすることで意図的に,また非意図的に「昆虫の家畜化」が生じ,寿命・性成熟期間が短くなる,交尾開始時間が早くなるといったような生存や繁殖に関わる形質の変化をもたらす事が知られている.

沖縄県病害虫防除技術センターでは,不妊虫放飼に用いるアリモドキゾウムシCylas formicariusの累代大量飼育を現在約10年(約70世代)行っている.本種の雌は1度交尾をするとフェロモン分泌を停止するため,野外では再交尾の機会はほとんどないとされる.一方,増殖下では雌雄が大量に狭い空間にいるため,野外とは違い雌は複数回交尾する機会が多いと考えられ,特に繁殖に関与する形質の変化が起こっている可能性がある.本研究では,アリモドキゾウムシ増殖虫を用いて,主に繁殖に関与する形質に対して野生虫との比較を行った.両系統間で雄がマウントを開始するまでの時間・マウント時間に差は見られなかったが,マウント後に雌の受精嚢への精子移送の有無を確認すると,野生虫雌への移送成功率は低かった.また,野生虫と増殖虫の組み合わせで1晩交尾機会を与えたところ,増殖虫雄と野生虫雌のペアでは交尾率が低くなった.同様に各系統の組み合わせで2週間の交尾期間を与えると,増殖虫雄とペアにした両系統の雌の死亡率は高くなった.本発表ではこれらの結果に基づき,長期累代飼育が繁殖に与える影響について考察する.


日本生態学会