| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-553

タカサゴシロアリの前兵蟻分化に伴う防衛器官の形成とDistal-less遺伝子の発現パターン

*栂浩平(富山大院・理),北條優(農生研),三浦徹(北大院・地球環境),前川清人(富山大院・理)

真社会性昆虫であるシロアリのカースト分化は、同じ遺伝情報から様々な環境要因により異なる表現型を示す表現型多形の一例である。コロニー内に、防衛に特殊化した兵蟻が存在することは、シロアリ社会の特徴である。シロアリが兵蟻を獲得した進化的な背景や兵蟻分化の至近要因を探る上で、兵蟻特異的な器官の発生機構を明らかにすることは重要である。兵蟻は職蟻から前兵蟻を経て分化するが、兵蟻の基本的な形態は職蟻から前兵蟻への脱皮で構築される。兵蟻の形態は種によって非常に多様化しており、最も派生的なテングシロアリ亜科 (シロアリ科) の兵蟻では、額腺の突起構造 (nasus) が頭部に形成され、額腺で産生される防衛物質をnasusの先端から噴出させる。nasusは職蟻の頭部に形成されるnasus原基に由来することが知られるが、詳細な発生機構は不明である。

本研究は、本亜科に属するタカサゴシロアリを用いて、兵蟻を特徴づける額腺とnasusの形成過程の理解を目的に、nasusと額腺の形成を組織学的・分子発生学的に解析した。額腺細胞とnasus原基は前兵蟻へ脱皮する6日前から徐々に発達し、nasus原基の形成より前に、額腺細胞の形成が開始されることが示された。更に、昆虫の付属肢の遠位部形成に関わるDistal-less (Dll) のホモログを決定し、リアルタイム定量PCR法により、各カーストの頭部での発現量を比較した。その結果、Dllは前兵蟻への脱皮途上の個体でのみ著しく発現量が高く、nasus原基の形成にも関与している可能性が強く示唆された。なお、Dllの発現部位や時期をより詳細に解析した結果も報告する予定である。


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