| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-630

市民活動による外来哺乳類対策は可能か?-ため池管理によるヌートリア根絶の論理と倫理

*立澤史郎(北大・文・地域), 小林勝志(里山獣研), 鈴木康良(加西市役所)

兵庫県加西市において、ヌートリアの分布拡大状況を検討したところ,ため池堤体に巣穴を掘り,メスグループを中心に周年営巣するなど、ため池に強く依存した生活をする一方、氾濫河川や旧来の灌漑方式(ため池取水)を実施している場所では分布拡大が見られず,新生仔の割合も低いことがわかった(既報)。このため,水位変動が大きい場合には巣穴が利用できず,繁殖巣の維持が困難になって,特に冬期の繁殖率や生残率の低下につながると考え、かつて頻繁に行われていたため池の水抜きを地元農会等に呼びかけ、水抜きがヌートリアの生息状況に与える影響を主にスポットライトカウント法により調べた。対象としたため池31か所のうち、水抜きのみを行った6か所、捕獲のみを行った10か所、両方を実施した3か所のいずれも、事前にくらべ事後のヌートリアの発見頭数は有意に少なかった(paired t test, p<0.01)。しかも、水抜きを行った計9カ所のうち4か所では発見数が0となり、巣穴放棄など、大きな攪乱効果がみられた。その後、この操作(水抜き)を行った地元主体や参加した市民と討議した結果、この手法のメリットとして、直接的な殺傷を伴わないため受容されやすいこと、地域の歴史や文化の見直しを伴う意義が高いこと、イベント化を行いやすいこと、デメリットとしては、社会的コスト(労力・費用・時間)がかかり個人単位で実施できない、直接捕獲と比べて効果が見えにくいなどが指摘された。このような市民参加型もしくは地域社会主導型の外来種管理では、主体側も含めて問題意識が農業被害に集中したり、イベント化により所期の目的(外来種管理)が失われやすい傾向が見られるが、一方では、地域社会に整合的な効率的手法と効果測定が行われれば、目的化しない形で外来種対策が進みうる可能性もあると考えられる。


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