| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-237

シロアリの卵に化ける菌類:フェロモンでシロアリをだます仕組みを解明

*巽真悟,松浦健二(岡山大・院・環境)

昆虫と菌類の多様な関係を象徴するものとして、菌類によるシロアリの卵擬態が知られている。本研究は、菌類が昆虫の社会行動を化学的に操作することを初めて明らかにした。シロアリは、女王が産んだ卵を認識して育室に運び込み、頻繁にグルーミングして保護する。その卵塊中に、卵擬態菌核菌の菌核(ターマイトボール)がしばしば混入している。シロアリは、ターマイトボールを卵と認識して同様に保護する。これにより、ターマイトボールは競争者フリーの生息場所を得ている。シロアリは、卵の形とサイズおよび表面の化学物質によって卵を認識しており、ターマイトボールは形態的かつ化学的にシロアリの卵に擬態している。しかし、その化学擬態のメカニズムについては不明であった。本研究では、シロアリの卵認識フェロモンを特定し、ターマイトボールの化学擬態メカニズムを解明した。

ヤマトシロアリを用いた行動実験および化学分析により、シロアリの卵認識フェロモンの成分が、セルロース分解酵素β-グルコシダーゼと抗菌酵素リゾチームであることが明らかになった。これらの酵素は、シロアリや食材性ゴキブリの主な唾液成分であり、シロアリの卵においても生産されている。さらに、ターマイトボールはβ-グルコシダーゼを生産することで、シロアリの卵に化学擬態していることが明らかになった。また、シロアリは本来、セルロース分解のためにβ-グルコシダーゼを生産しており、二次的な機能としてそれを卵認識に利用していることが判明した。ともにセルロース分解のニッチに生きるシロアリとターマイトボールにおいて、利用する化学物質が両者に共通したことが、菌によるシロアリ卵擬態を生む前適応的要因であったと考えられる。


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