| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-248

分布北限のブナ林におけるスペシャリスト植食性鱗翅目の欠如はブナの被食防御能に影響するか

*小林誠(北大・環境科学),日向潔美,渡邊陽子(北大院農),吉田国吉(芽室町)

植食者による被食は植物にとって大きな淘汰圧になりうる。樹木種の地理的分布フロントは,集団形成の時間的・空間的制約から,その種依存的な植食者の追随分布に制限が生じる可能性がある。そのため植食者の分布欠如は,高い被食圧からの回避を通して分布フロントでのホストのパフォーマンスに影響することが予想される。

現在の分布北限のブナ林は後氷期の分布拡大におけるフロント集団と考えられ,これまでの研究から2科4種のブナのスペシャリスト植食性鱗翅目(SP)が確認されている。また分布最フロントのブナ林においても1種のSPが確認されたが,本来大発生を繰り返し高い被食圧の性質を持つSP(ブナアオシャチホコ(ブナアオ))は欠如し,SPの追随性に制限が生じていた。

そこで本研究では,高い被食圧を持つSPの分布欠如によるブナへの影響を明らかにするため,1)数ヶ所のブナ林においてブナの葉の被食率を評価し,被食圧の地理的分布を明らかにし,2)ブナアオの分布の有無による2地域間のブナ林において,被食されていないブナの葉の防御物質の量的季節変化の比較を行った。

その結果,葉の被食率とブナアオの生息の有無に対応関係が見られ,特に分布最フロント地域のブナ林および単木個体で被食率が低下し,分布フロントに向かう被食圧の減少傾向がみられた。また,ブナアオが欠如する分布最フロントブナ林では,同LMAレベルで葉の防御物質が少ないことが明らかになった。さらに,ブナアオの分布するブナ林では葉の発達に伴い防御物質に顕著な増加がみられ,ブナアオ終令幼虫の発生時期と対応した。

以上のことから,地理的分布フロントにおける植食者の追随性の制限は,被食圧の減少をもたらし,結果的に被食防衛能に影響を与えると考えられた。これは,分布フロントにおけるブナのパフォーマンスに正に寄与する可能性を示唆した。


日本生態学会