| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-296

谷地坊主が形成するリターの実生定着に対する重要性

*小山明日香(北大・環境科学院),露崎史朗

泥炭採掘跡地は、植生の消失により直射日光にさらされ、地表面の乾燥化・土壌侵食を受けるため、植物定着の困難な環境である。北海道サロベツ湿原の泥炭採掘跡地では、ホロムイスゲとワタスゲの谷地坊主が遷移初期種として発達している。谷地坊主は、リターを蓄積し、隆起した構造をもつことで特徴づけられる。リターは被陰により乾燥を緩和し、傾斜した構造は土壌侵食を緩和する一方で垂直方向の乾燥を引き起こす。このように、谷地坊主は裸地に微環境を提供し、ストレスを緩和することで、他種の定着を促進(ファシリテーション)すると考えられる。また、谷地坊主の構成種間でその構造は異なっており、ワタスゲはより傾斜した構造をもつ。そこで、泥炭採掘跡地における谷地坊主のファシリテーション機構を明らかにするために、1)リター及び構造は実生生存、成長を促進するか、2)谷地坊主構成種間でその効果は異なるか、を検証した。

調査は、谷地坊主、リターを除去した谷地坊主(リター除去)、リターを付加した裸地(リター付加)及び裸地の4処理区において、採掘跡地に生育する3種(ヌマガヤ,サワギキョウ,アキノキリンソウ)の実生を移植し、生存及び当年成長を比較した。

その結果、谷地坊主及びリター付加区において、ヌマガヤの成長、サワギキョウ及びアキノキリンソウの生存・成長が促進された。一方で、リター除去区における生存及び成長の促進はほとんど認められなかった。また、谷地坊主構成種間で、ホロムイスゲの谷地坊主はヌマガヤ及びアキノキリンソウの生存・成長をより促進させた。これらのことより、谷地坊主はリターを蓄積することで乾燥を緩和し、他種の実生定着に寄与しているが、ワタスゲの傾斜した構造は乾燥を引き起こすため、ホロムイスゲの谷地坊主がより強いファシリテーション効果をもつと考えられた。


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