| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-312

世界遺産の動きを観る 〜白神山地ブナ林モニタリング十年の歩み〜

*石橋史朗(環境省世界遺産セ),齋藤宗勝(盛岡大短大部),蒔田明史(秋田県大),松井淳(奈良教育大),神林友広(深浦町),小関孝一,畑雅之,石澤幸人(ウォッチング青森),中静透(東北大)

白神山地は1993年に世界遺産に登録された世界最大の原生的なブナ林である。しかし、これまでこの地域のブナ林の構造や動態についてはあまり研究がなされてこなかった。また、世界規模での気候変動・生物間相互作用の変化・過度な利用に対する自然環境への悪影響等が各地で問題になっている現在、白神山地の適切な管理のためにブナ林の構造や動態を解明する事が必要である。

世界遺産核心地域で典型的な3つのタイプのブナ林(クマゲラの森サイト・櫛石山尾根サイト・赤石川源流サイト)を選びそれぞれに1haの永久調査区を設置し1999年から2008年までモニタリング調査を行った。各サイトに高木、低木、ササ、実生調査区を設置して1年に1回測定を行った。また、リター・シードトラップを設置し,毎年6月から10月まで月一度回収し、落下物毎の乾燥重量や種子の個数を計測した。

直径の頻度分布は櫛石山尾根サイトでは、DBH1mを超えるブナの大径木がある一方ブナ以外の小径木が多くL字型分布をしていたが、DBH5cm〜20cmのブナは10本/haとかなり少なく成熟したブナ林であった。クマゲラの森サイトは地滑り地形とそれ以外の地形に大きく分ける事ができた。地滑り地形ではDBH80cm以上の個体が少なく、太さが比較的揃い、ブナ以外の種数が少ないという一斉林型の分布を示していた。また、林床の植生が貧弱だった。地滑り地形以外と赤石川源流サイトではL字型でブナの小径木も比較的多く典型的なブナ原生林の形に近かった。こうした構造の違いに応じて動態のパラメータも林分毎に異なる事から、白神山地に生育するブナ林であっても成立過程や発達状況が異なっていることが示唆された。


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