| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-320

ブナ実生の生残と光環境との関係

西本 孝(岡山県自然保護センター)

岡山県北部にある若杉原生林(920-1100m)に残されたブナ林で,隣接する2つの調査区を設置して,ブナ実生がどのような場所で生残するのかについて,生残する位置の座標と樹幹やササの稈密度並びに光環境を調査し,実生が生残しやすい場所の光環境条件について考察を行った.

若杉原生林は長期間ブナ林が保護され,過去には択抜などの軽微な管理が行われていた原生状態の保たれた森林である.林床には2m近いチシマザサが密生しており,1m程度のチマキザサと2層となっている.チマキザサは1967年頃に枯死したが,その後の再生状態は必ずしも良好でない.調査区は北向き斜面に30m四方の方形区を設け,調査区1ではミズメやホオノキとブナが混生し,調査区2ではブナが優占していた.

ブナ実生はチマキザサが枯死した時に発生したと思われる個体がチシマザサの下で生残する他,1996年,2004年,2006年に発生した個体が見られた.2006年に発生した実生は調査区1で約200本,調査区2で約400本あったが,ササ層を超えた個体は極端に少なく,調査区1では樹高順に連続していたが,調査区2では樹高10〜20mのものが欠落していた.また,2006年生の実生が多く生残したのはササの稈密度の低い場所であったのに対して,1967年生と推定される実生が多く生残したのはササの稈密度の高い方であり,ミズメやホオノキが優占する場所であった.

感光フィルムを用いた日平均積算日射量は,ササの稈密度との関係を調べた結果からは,稈密度が高くなるにつれて急激に減少するのではなく,4〜8本/m2程度の稈密度の場合にはほぼ一定となっていることが明らかになった.ササの平均稈長が短い調査区2(1.62m)ではこのような関係は認められなかったことから,平均稈長が比較的長い(1.91m)調査区1では,ササの密生下でも実生が生残できる光環境条件となっていると推測された.


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