| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-321

光・密度・ネズミ類の被食を制御した実験系におけるブナ当年生実生の生残過程と死亡要因 −北限域での例−

*並川寛司,渡辺直樹(北教大・札幌・生物),松井哲哉(森林総研・北海道),小林 誠(北大・環境科学)

北限域でのブナの更新は活発で,多くの林分で実生あるいは稚樹が高い密度で生育している.本州では当年生実生の大半が梅雨期に菌類の感染によって死亡することが報告されていることから,梅雨期のない北限域ではこの要因による死亡の割合が低いことが予想される.このことを検証するため,以下のような実験系で当年生実生の生残過程と死亡要因を観察・記録した.

黒松内低地帯中央部の添別ブナ林で,林内からランダムに当年生実生を270個体,土壌ごと直径約10 cmのポットに移植した.林冠の閉じた場所を選び,ネズミ類の被食を排除するために高さ約40 cmの枠を地下10 cmまで埋め込んだ.各枠の中に10個あるいは20個のポットを入れ一組とし(密度処理),これを3組3反復設置した.各反復の3組に対し,寒冷紗0,1,2枚で覆う処理を行った(光処理).また,実験区周辺に生育する当年生実生30個体に標識を付した.実験区および実験区周辺の実生の生死と死亡要因を,5月11日から11月1日までほぼ一週間間隔で観察・記録した.

実験区周辺の実生は5月30日からネズミ類の被食を受け,7月17日に生残個体は0となった.一方,実験区では,最終的に約45%の個体が生残していた.

実験区で処理を込みにした日当たり死亡率の推移をみると,6月20日〜7月11日および7月25日〜8月14日に死亡率の高い時期が見られた.前者の時期では要因不明(凋萎),菌類の感染,双翅目による被食が主な死亡要因であったのに対し,後者では双翅目による被食とアブラムシによる吸汁が主な死亡要因であった.前者の時期の主な死亡要因の一つである菌類の感染による死亡率は積算した光量および温度と負の相関を示したのに対し,後者の主な死亡要因の一つである双翅目の被食による死亡率は,高密度区で高い傾向を示した.


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