| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-325

道路沿いの亜高山帯針葉樹林におけるニホンジカの剥皮と競争が更新に及ぼす影響

長池卓男(山梨県森林研),高橋一秋(長野大),高野瀬洋一郎(新潟大)

ニホンジカの摂食による森林への影響が顕在化しつつある富士山の亜高山帯(標高2100m)において、道路沿いに豊富に更新した常緑針葉樹(コメツガ、オオシラビソ、シラビソ)の稚樹(樹高2m以上胸高直径3cm未満)について動態を調査した。1999年に、道路に沿って50m、道から直角方向に140mの調査区を設定した。調査区を5×5mの方形区に分割し、方形区ごとで樹高2m以上の常緑針葉樹を対象に毎木調査を行った。その後、2001年、2003年、2005年、2007年にそれぞれ再調査を行い、個体の生死やニホンジカによる剥皮、新規加入個体等を記録した。3種とも胸高直径の頻度分布はL字型を示し稚樹が豊富であった。しかし、3種とも調査期間中に稚樹密度が減少していた。特に、コメツガとシラビソの稚樹では枯死個体数の増加、新規加入個体数および進界個体数の減少がみられ、コメツガでは2003年から、シラビソでは2007年から枯死速度が新規加入速度を上回っていた。ニホンジカの剥皮により死亡した個体のサイズは平均胸高直径で約5cmであり、大径木での剥皮による死亡個体は見られていない。また、ニホンジカの剥皮による死亡個体はオオシラビソでは見られず、全死亡個体に占めるその割合は、コメツガでは低く推移していたものの、シラビソでは年々増加していた。新規加入個体は道路沿いに多く、2005年までは増加していたものの、2007年には減少していた。ニホンジカの剥皮により死亡した個体は道路沿いに集中しており、それはシラビソ稚樹が道路沿いに豊富に生育していることによる樹種およびサイズ依存性に起因していた。一般化加法モデルによりコメツガとシラビソの稚樹の死亡に及ぼす要因を解析したところ、密度効果よりもニホンジカの剥皮による影響の方が大きかった。


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