| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-652

イヌガシの散布前種子の死亡要因

中北ねり,松井淳(奈良教育大学)

奈良公園に生育するクスノキ科の雌雄異株の常緑亜高木であるイヌガシを対象として、2年間にわたって開花結実過程を追跡した。雌株7個体の樹冠下に開口部0.5m2のシードトラップを1基ずつ設置し、3月から11月まで落下果実の採集を行った。

7個体合計で2007年は9746個、2008年は2268個を採集した。落下果実数は2007年の方がすべての個体で多かった。また、2007年は10月以降も樹上に多数の果実が残っていたが、2008年は10月の時点で果実はひとつもみられなかった。

落下果実のうち長径1mm以上のものについて、2007年は7187個、2008年は1644個を切り開いて中を調べた。虫がいたり、糞が残っていたりなど食害を受けた痕跡があるものは、それぞれ71.0%、61.1%にのぼった。このことから、未成熟で落下した果実の大半が食害を受けていることがわかった。豊作の2007年の方が落下果実にしめる食害果実の割合は高かったが、生産された果実全体での食害率を考える場合、樹上の果実の存在を無視することはできない。そのため、はしごを設置した2個体に絞り、結実期に採取した枝から0.5m2あたりの樹上果実数を推定し、食害率の補正を行った。すると、2007年では補正前71.1%だった食害率が56.2%となった。2008年は63.5%であり、凶作年よりも豊作年の方が食害率が低かったことから、豊凶をつくり、豊作年に健全な種子をたくさん残せるような戦略を行っていることが示唆された。

また、種子内部から2007年に53個体、2008年に12個体の昆虫が確認された。主な種子捕食者についてはハリオタマバエの一種であることが確認された。


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