| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-655

林床性多回繁殖型多年草ヤマブキソウ(ケシ科)の生活史とデモグラフィー

今井宏昭,小林幹夫(宇都宮大・農・森林)

宇都宮大学農学部附属船生演習林(栃木県塩谷町)の97年生ヒノキ長伐期施業区に残存するケヤキ林に生育するヤマブキソウChelidonium japonicum Thunb. (ケシ科) の個体群に、10×10mプロットを設置した。生育地は南向き斜面、砕けた流紋岩が露出する谷筋である。2007年5月にプロット内の全個体を識別し、2008年6月まで追跡調査により動態を調べた。総数は771個体、2008年の当年生実生は527本であった。個体あたりの葉数とサイズ、開花個体の花数により、当年生実生、一葉小型、一葉大型、二葉未開花、花数1、花数2~3、花数4以上の7生育段階に区分した。推移の型として、隣接する段階への前進と後退、同じ段階での滞留があるが、隣接する段階を飛ばした推移も見られた。花数4以上の段階から一葉大型段階への後退、逆に一葉小型段階から花数1段階への前進も見られた。これらの生育段階毎に2~3個体ずつ採取し、器官乾物分配比を測定するとともに、個体数の変動を基に推移行列を作成し、L関数により分布様式を推定した。

ヤマブキソウは種子繁殖を行う一方、塊茎により多数のラメットを形成した。花数4以上の段階のジェネットでは、最大で27のラメットを持つ個体も記録された。

器官乾物分配比は全段階において一年を通じて塊茎の割合が最も高かったが、その割合は開花段階で特に高い傾向があった。

推移行列に基づく弾力性分析の結果は、花数2~3段階の生存が個体群成長率に最も正の影響を与えることを示唆した。

全個体は斜面上部に偏った集中分布を示し、当年生実生は集中斑が散在する傾向を示した。これらの要因として、種子がアリ散布であること、ジュウモンジシダの株の分布、流紋岩の存在が可能性が考えられた。


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