| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-705

森林伐採が窒素流出に与える影響の評価 -降雨時観測のススメ-

小田智基(東大院農),大手信人(東大院農),鈴木雅一(東大院農)

一般に森林伐採は渓流水質に種々の影響を与える。この影響を的確に評価するためには森林生態系内の物質循環の実態を明らかにする必要がある。これまで、森林伐採に伴う養分流出、特に硝酸の流出について多くの研究がなされており、渓流水中の硝酸濃度は伐採1年後に増加し始め、3〜6年間高濃度流出が継続することが世界各地で報告されている。しかし、それらのほとんどは、週1回から1ヶ月に一回の定期採水に基づくデータであり、降雨流出時のNO3-流出に着目した研究はほとんど報告されていない。本研究では、1999年4月に皆伐、2000年4月に植林が行われた、東京大学千葉演習林袋山沢試験地を対象とし、森林伐採後6年に渡る定期採水、10回以上の降雨時集中観測の結果をもとに、森林伐採が窒素流出に及ぼす影響、特に降雨流出の影響について検討した。その結果、伐採後4ヶ月間は伐採前と比べて渓流水中のNO3-濃度に変化が見られなかったが、4ヶ月後から、洪水時に急激な濃度上昇が見られた。伐採から1年が経過すると、低流出水時のNO3-濃度が上昇し始め、洪水時のNO3-濃度の上昇率は低下した。その後、6年近くかけて伐採前の状態に近づいた。伐採後4ヶ月以降の洪水時の濃度上昇は、植物による吸収が行われなくなったためNO3-が土壌の表層付近に蓄積され、降雨流出時にこの部分を通過して流れる水と共に渓流に流出したものと考えられる。伐採の影響を最も受けたと考えられる、伐採直後の2年間における無機態窒素(NO3-+NH4+)の流出負荷量は、降雨流出時の濃度変化を考慮した場合49 kg-Nであったが、それを考慮しない場合には28 kg-Nであった。降雨流出時の流出濃度を考慮しなければ、特に伐採直後の流出負荷量を過小評価することが明らかになり、降雨時の観測に基づいて伐採の影響を検討する必要性が示された。


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