| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-712

冷温帯シバ型放牧草地における総生産量の推定

*横山誠,小泉博(早稲田・教育)

冷温帯や放牧という条件はシバの生育に適しており,この条件のもとでシバは容易に優占し,安定した草地を形成する。一方,総生産量は植物が一定期間内に光合成によってつくり出す有機物の総量であり,生物が自己の生命活動を維持する上で利用することのできるエネルギーの最大値である。牧草の物質生産に関する研究はこれまで,植物体の地上部の収穫量や刈り取り後の再生といった農業的な側面に焦点をあてたものが多く,呼吸量や枯死量,被食量をも含めた植物体の物質生産を考えた研究例は少ない。またシバに関する研究においては,シバの細根が非常に多いため,細根の生体と枯死体の判別をおこなったような研究例はほとんどない。植物体全体としての物質生産を考えた場合,当然のことながら地上部の枯死量だけでなく地下部の枯死量も推定しなければ物質生産の真の理解には近づけない。これらの考えの下,本研究では呼吸量や地下部の枯死量をも含めたシバ型草地の総生産量の推定をおこなった。総生産量の推定においては,まず形態的特徴からシバを地上部,地下茎,根といった器官別に分類した。次に各器官の呼吸量,成長量,枯死量,被食量をそれぞれ求め,これらを足し加えることで総生産量を算出した。その結果,総生産量は7月にピークを迎え,そのうちの半分を純生産量,呼吸量がそれぞれ占めた。また,純生産量は7月にピークを迎えたのち著しい低下を示したが,呼吸量の低下はそれに比して小さかった。調査地のシバは冬季に地上部を枯らしてしまうことから,シバの物質生産は,春から夏にかけては植物体の維持とともに地上部の構成に重点が置かれ,夏以降はおもに植物体の維持が目的になるとみられる。これは,放牧に適した期間は春から夏までであり,秋にまでおよぶ長期の放牧は家畜による牧草の過剰採食をまねき,草地の安定性維持に影響を及ぼす可能性を示唆している。


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