| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-715

家畜の被食が制御するチベット高山草原の生態系構造と炭素循環

*廣田充(筑波大・菅平セ), 大塚俊之(岐阜大・流圏セ),古松(中科院・西北高原),八代裕一郎,志津庸子(岐阜大・流圏セ),下野綾子,沈海花(国環研・生物),杜明遠(農環研・大気),唐艶鴻(国環研・生物)

青海・チベット高原は、標高が高くかつ非常に広大な草原生態系が大部分を占める。この草原生態系は、土壌炭素蓄積量が多く現在も炭素の吸収源であり、重要な生態系として注目されている。この草原生態系には家畜の放牧地としての側面もあり、特に高標高域に広がる高山草原は伝統的に夏の放牧地であり、植物の生育期間中に家畜の影響を受けることから、増加傾向にある家畜による高山草原の荒廃化が懸念されている。したがって高山草原における家畜の影響の解明は重要である。さらにこのような高山草原は、温暖化等の環境変動の影響が顕著化しやすい脆弱生態系でもあり、本来の高山草原生態系の特性を把握することも重要である。しかしチベット高原の高山草原において家畜の影響に関する知見はほとんどない。

そこで我々は、チベット高原の高山草原における家畜の影響および当該生態系の本来の特徴の解明を目的として長期研究を展開している。本大会では、家畜の被食が高山草原の生態系の構造と生態系炭素フラックスに及ぼす影響について報告する。

調査は2008年7月に中国青海省の海北試験地近郊にある高山斜面(3600-4200m)で行った。2006年に標高200m毎に設置した保護区内外において、植生構造、土壌炭素量および生態系炭素フラックスの調査を行った。その結果、保護区外では低標高域ほど家畜の被食圧が高く、植物量および生態系総光合成量も小さく、高標高域ほどその植物量および生態系総光合成量が大きくなった。一方保護区内においては逆の傾向がみられ、家畜の被食が高山草原、中でも低標高域における植生構造および炭素循環に多大な影響を及ぼしていることが示唆された。


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