| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-414

神奈川県愛川町尾山耕地におけるモートンイトトンボの生息状況1.水田ごとの個体数

*松村和音(東海大院・人間環境),大木悦子(あいかわ自然ネットワーク),田島文忠(昭和環境システム),北野忠,内田晴久(東海大・教養)

半人工的な自然環境である水田環境には多様な生物保全機能がある。しかし、この生物保全機能は自然立地や整備基盤といった土地条件により異なるのはもちろんのこと、同じ地域であっても水田の管理方法や農法は管理者により違いがあり、それにともない生物保全機能も水田により異なると考えられる。

神奈川県愛川町の尾山耕地は多くの水生生物が生息する水田地帯である。本調査では尾山耕地内の水田の生物保全機能を評価することを目的とし、環境省版RLで準絶滅危惧、県版RLで絶滅危惧IB類とされているモートンイトトンボMortonagrion selenionを指標とし、生息状況を調べた。2006〜2008年の各年6月に1度、130枚ある各水田の個体数をラインセンサスにより数えた。

その結果、各年それぞれ1673個体、836個体、1122個体が確認された。また、いずれの年も100個体以上確認される水田がある一方、130枚中35枚以上の水田では全く確認できなかった。当地の水田を管理されている農家の1人のK氏から話を伺ったところ、K氏は水田に生き物が多いことを高く評価しており、化学肥料や農薬を極力控えているとのことであった。そこで、K氏の管理水田とK氏以外の方の管理水田の個体数を比較すると、いずれの年もマン・ホイットニーのU検定によりK氏の管理水田の方が有意に多かった。このことから、尾山耕地では各農家の管理方法や農法により本種の生息状況に違いがあると推察された。今後は他の農家の方の管理方法や農法について確認し、本種の生息に影響を及ぼす要因について調べるとともに、本種を指標とした生物多様性の評価についても検討する予定である。またこれらの知見は、より高い生物保全機能を有する水田を維持するための基礎知見になると考えられる。


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