| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-811

草原性絶滅危惧植物ハナシノブの全残存集団の網羅的遺伝解析

*横川昌史,兼子伸吾(京大院・農),瀬井純雄(阿蘇花野協会),高橋佳孝(近中四農研),井鷺裕司(京大院・農)

ハナシノブPolemonium kiushianumは、九州地方に固有の草原性多年草である。現存する個体数は推定400個体で、絶滅危惧IA類に指定されており、早急な保全策が必要とされている。残存する野生集団は5集団と非常に少ないが、保全や鑑賞を目的とした栽培集団も存在する。個体数が著しく減少した絶滅危惧種の場合、栽培集団も含めた残存集団の遺伝的多様性や遺伝構造を明らかにした上で保全計画を決定する必要がある。本研究では、ハナシノブの遺伝的多様性と遺伝構造を明らかにするため、九州地方の阿蘇山系に残存する全ての野生集団と2つの栽培集団、計7集団を対象にマイクロサテライトマーカーによる解析を行った。

解析の結果、集団間で遺伝的多様性(ヘテロ接合度、アレリックリッチネス)に大きな違いはなかったが、栽培集団ではレアアリルが失われていた。STRUCTURE解析の結果、3つのクラスターが検出された。クラスター1は個体数の多い野生集団に多く、推定された祖先集団に最も近い集団構造を持っていた。クラスター2は個体数の少ない野生集団に、クラスター3は栽培集団に多く、ともに遺伝的浮動の影響を受けたことを示唆していた。以上のことから、個体数の少ない野生集団は、ボトルネックを経験していることが考えられた。また、栽培集団の遺伝的構成は野生集団のものを反映していなかったので、栽培集団創成時に適切な種子採取がされなかったと考えられる。栽培集団にハナシノブの遺伝的多様性を保全する役割を期待するのであれば、残存する野生集団から集団構造や個体の遺伝子型に注意した上で種子を採取し、栽培集団へ供給する必要がある。


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