| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-813

斐伊川水系における準絶滅危惧種オオクグの遺伝的多様性評価

大林夏湖,程木義邦,國井秀伸(島根大学汽水域研究センター)

海岸や河川干潮域に発達する塩生湿地植物群落は,沿岸開発や埋め立てなどの人為的な地形改変による直接的・間接的な影響を受け,生育地の縮小化や分断化が顕著な場の一つである.本研究の対象種であるカヤツリグサ科スゲ属のオオクグ(Carex rugulosa Kük.)もこのような場所に生育し,環境省のレッドリストで初期に絶滅危惧II類(VU),2008年の見直しにより準絶滅危惧種(NT)に指定された塩生湿地植物である.

演者らは,栄養繁殖を行うオオクグの遺伝的多様性を評価する手法として12遺伝子座のマイクロサテライトマーカー開発を行った(Ohbayashi et al. 2008).1遺伝子座あたりの平均アリル数は2.75,平均ヘテロ接合度は0.32であった.このうち,7遺伝子座を使用し、(1)島根県斐伊川水系内の13局所個体群,および,(2)日本国内の8地域個体群の遺伝的多様性評価を行った.島根県斐伊川水系内の個体群のうち,4個体群が1つのgenetで構成されており,すでに斐伊川水系内ではオオクグの遺伝的多様性が低下している現状が明らかとなった.また,生育面積と平均アリル数に正の相関がみられた.これらのことから,オオクグの遺伝的多様性を維持するうえで,現存する大規模個体群は現状のまま保全する必要性が示唆された.


日本生態学会