| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-817

ミトコンドリアDNAコントロール領域の解析から見えてきたサシバの遺伝的構造(予報)

*長井和哉,東 淳樹(岩手大・農・保全生物),伊関文隆(NPO法人・希少生物研),樋口広芳(東京大院・農・生物多様性)

サシバ(Butastur indicus)は東アジアにのみ生息する中型の猛禽類である.夏季に日本の本州,四国,九州で繁殖するために飛来し,温暖な東南アジアで越冬する.近年の環境変異に伴い生息数が著しく減少しており,環境省鳥類レッドリストにより絶滅危惧種(VU)に定められた.早急な保護対策のためにも,本種の遺伝的構造の調査が必要である.また,本種がどのような地域個体とつがいを形成するのかといった繁殖動態や,それぞれの地域で繁殖する個体群間の遺伝的な交流の有無などについては不明なままである.そこで本研究では,サシバ個体群がどのような遺伝的構造を有しているのかを調査・推定するために,ミトコンドリアDNAコントロール領域の塩基配列の解析を行った.すべての解析には捕獲時の脱落羽毛および繁殖地等での拾得羽毛を用いた.

繁殖期の岩手,福岡,越冬期の石垣島を中心とした日本各地で得られた26個体の羽毛からDNA抽出を行い,ミトコンドリアDNAのコントロール領域835bpを解析に用いたところ,19のハプロタイプが検出され,他の希少猛禽類と比較すると,本種の遺伝的多様性は十分に高いことが示された.また,得られたそれぞれの塩基配列を用いて系統解析,ネットワーク解析を行ったところ,解析した個体数や地域による偏りはあるものの,全国的に分布する集団と,西日本を中心とする集団の二つに分かれる傾向があることが示唆された.今後は,解析する地域数や個体数を増やし,より詳細な遺伝的構造の解析を進める必要がある.


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