| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-819

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの生息地として創出したヨシ群落の6年間の動態

*寺本悠子, 渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボは汽水域に成立した閉鎖的なヨシ群落下部を生息地とし、同一群落内で一生を完結するという特異な生活史をもっている。2003年1月、三重県伊勢市において、本種の保全のため、生息地(約500m2)に隣接した放棄水田にヨシの根茎を密植し、海水と淡水を混合した汽水を流して、新たなヨシ群落(2110m2)を創出した。これらのヨシ群落内に永久コドラートを設置し、6年間にわたって毎月1回、出現したヨシの自然高と根際直径、稈密度、群落下部の相対照度を測定し、ヒヌマイトトンボの生息場所としての観点から評価を行なった。密植した群落で芽生えたヨシの密度は134本/m2(2003年)と生息地の密度とほぼ同等であったが、それらの根際直径は4.1mmと細く、6月になっても自然高は41cmにすぎなかった。この時の生息地の根際直径は5.2mmで、自然高は104cmである。この結果、直射光は群落下部まで届いたので、相対照度は高く、ヒヌマイトトンボにとって好適な環境とはみなされなかった。翌年以降、創出したヨシ群落は生長し、2008年6月の自然高は159cmと既存の生息地よりも高くなっていた。ヨシの自然高と現存量(乾燥重量)の相対生長式を作るとともに、調査地全体の自然高と密度の地図を作成してヨシ群落全体の現存量を推定したところ、生息地では毎年約2kg/m2となった。一方、創出したヨシ群落では、2003年に0.15kg/m2)にすぎなかったのが年々増加し、2008年には3.31kg/m2)となった。すなわち、創出したヨシ群落では6年間で生息地を上回る物質生産を行なえるようになり、結果として、既存生息地よりも閉鎖的なヨシ群落を形成したといえる。群落下部の相対照度は10%以下に保たれ、ヒヌマイトトンボにとって好適な群落環境になったと評価できた。


日本生態学会