| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-825

外来ヤモリが在来近縁ヤモリに与える影響〜環境利用の観点から〜 

河合 潮(京大・院・理)

ミナミヤモリは南西諸島に広く分布する小型夜行性ヤモリである。屋久島における近年の分布調査により、いくつかの集落に人為的に移入されたことが指摘されている。屋久島にはミナミヤモリに形態的によく似ている近縁在来種のヤクヤモリが生息する。先行研究によって、この二種は同所的に生息する九州南部で交雑による遺伝子浸透を起こしていることが示されており、屋久島においても同様の現象が生じることが予測される。

本研究では、屋久島においてミナミヤモリの移入がヤクヤモリにどのような影響を与えているかを把握することを目的として、分布調査を行い、地理情報システム(GIS)を用いて潜在生息適地図を作成し、二種の分布を規定している環境要因や、種間干渉について検討した。また、調査はミナミヤモリが移入されたことが知られている二集落、及びミナミヤモリが分布していないとされる三集落を中心とし、それらの集落間におけるヤクヤモリの分布状況を比較、考察した。さらに、二種の交雑の有無を明らかにする為にアロザイム解析を行った。

作成した潜在生息適地図によって、ヤクヤモリは森林環境に多く出現する傾向があることが示された。一方、ミナミヤモリは人為的撹乱の多い環境により多く出現する傾向があり、そういった環境に沿って、選択的に分布を拡大してきたことが示唆された。このように、二種の生息地は概ね環境によって規定されているが、集落周縁のような潜在生息適地の境界域では交雑と遺伝子浸透が高頻度で起こるということが明らかになった。そして、集落間の比較からミナミヤモリはそういった地域でヤクヤモリの分布を圧迫していることが示唆された。また、潜在生息適地図からは、ミナミヤモリが島内において、今後分布域をさらに拡大する可能性があること、交雑を通して遺伝子浸透が深く進行する可能性があることが読み取れた。


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