| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-847

地域の生物多様性保全のあり方を,植物の種子散布様式を通して考える

今村彰生,島田知彦,岡本奈保子,小田さつき,黒石麻央,下田奈美子,大西信弘

京都学園大学の「かめおか団栗団」が京都府亀岡盆地の生物相総合調査をおこない、データーベース作成と標本の蓄積に取り組んでいる。

主にロードセンサス法により、大学周辺地域の二次林、耕作地、休耕田、水路の生物を調査し、2009年1月までに950種以上(植物約500種、は虫類8種、両生類11種、真菌約140種、昆虫90種、クモ形綱約90種、鳥47種、地衣類20種など)を記録した。

本研究で、これまでに記録した維管束植物519種の全てについて種子散布様式について文献調査した結果、動物が188種、風が127種であった。重力散布と自発散布はそれぞれ66種で、散布に他の生物を必要としない植物の割合の低さが明らかになった。

また、これまでの調査(今村ら,第55回生態学会講演要旨集)でハビタットを4つに類別(林、林縁、畦・河畔、水田・水辺)して解析すると、植物の出現にハビタット間の共通種がほとんどないことが示されている。そこでハビタットごとに散布様式を解析した結果、畦・河畔では、風散布、重力散布、自発散布、水散布する種の割合が高まった。

さらに、動物散布を鳥、哺乳類、アリ、に細分したうえでハビタットごとに散布様式を解析すると、全体では鳥散布が半数を占めていたが、畦・河畔ではアリ散布植物が約20種にのぼり、ハビタット内の約10%を占めていた。

以上から、種子散布に動物と何らかの相互作用をもつ種が多いため、亀岡の植物相の保全には関連する動物も同時に保全せねばならないこと、水田環境に特有の植物群が生息しアリ散布や水散布といった特有の散布様式がみられる、といったことが明らかになった。植物のみに着目したり、特定の土地利用や環境条件の一部を切り取っても、地域の生物多様性保全には不十分であるという強い示唆を得た。


日本生態学会