| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-850

霧ヶ峰におけるシカの植生影響:ニッコウキスゲの被食分布

*尾関雅章, 岸元良輔(長野県環境保全研究所)

本州中部の八ヶ岳・中信高原国定公園内に含まれる霧ヶ峰において,ニホンジカ(以下,シカとする)によるニッコウキスゲ(ゼンテイカ)の被食状況を把握するため,ニッコウキスゲの花茎の被食分布を調査した.

霧ヶ峰は,車山(1925m)を最高峰とする火山性高原(標高1500〜1900m,東西約10km,南北約15km)で,高原上の緩斜面には,採草や火入れにより維持されてきた半自然草原と人工草地からなる草原植生が卓越している.シカは従来霧ヶ峰に生息していたが,1990年頃より頻繁に目撃されるようになったとされる.また,2004年から2008年の春・秋期に,霧ヶ峰を通過する車道を利用して行われたライトセンサス(センサスルートの延長:26km)では,平均20〜50頭等程度のシカが確認されている.

ニッコウキスゲは,主に霧ヶ峰の草原域に生育することから,霧ヶ峰の草原内を通過する歩道を調査ルートとし,調査ルート上で,およそ500m間隔となるように計84地点に調査区(長さ10m×幅1m)を歩道に沿って設けた.調査区内のニッコウキスゲの花茎の有無を確認し,花茎がある場合には,被食を受けていない健全花茎数と被食花茎数を計数した.その際,花茎もしくは花柄が,シカの採食によって切断されている場合に被食花茎とした.

調査地点のうち,ニッコウキスゲは65地点(花茎総数:1057本)で確認された.ニッコウキスゲの生育する65地点のうち,シカによる被食は57地点(87.7%)で確認された.調査地点全体でのニッコウキスゲの花茎の平均被食率は,57.4%であったが,ニッコウキスゲの密度の高い群生地のなかには,被食率が80%以上と非常に高い地域もみられた.こうした被食圧の地域差は,シカが人の集中利用地域を忌避してニッコウキスゲを採食したことにより生じた可能性が考えられた.


日本生態学会