| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S08-1

外来植物ミチタネツケバナ(アブラナ科)の侵入過程

工藤洋(京大・生態研)

ミチタネツケバナ(Cardamine hirsuta L.)はヨーロッパ原産の外来植物である。ミチタネツケバナの日本への侵入と分布拡大は比較的最近に起こった。現在では、本州ではごく普通に見られるようになり、植え込みや芝地、農道や田畑の畦などに生育する。アブラナ科の小型の一年生草本であり秋に発芽してロゼット形成して越冬し、春先に開花する。外来植物が拡大する過程を知るのは難しいが、本種の場合は分布拡大の比較的初期にその侵入を報告し、その結果、拡大過程の一部を明らかにすることができた。日本におけるミチタネツケバナの分布拡大は1990年代に急速に進行し、現在も続いている。新たな外来生物の侵入は、意図しない野外実験と見ることができ、生態学・進化学についての基礎的な研究の場も与えてくれる。そのため、機会があるごとにミチタネツケバナを対象に研究をおこなっている。ミチタネツケバナの分布拡大過程を通じてみた生態・進化現象について、個体数の変動、在来種との生活史の比較、種子の発芽特性の変異、花形態の変異について得られているデータを紹介する。さらに、近縁種の種分化過程や自然分布と比較により、ミチタネツケバナが在来種との交雑を介して新規の異質倍数体を形成する可能性についても論じたい。ミチタネツケバナではゲノム情報の解読、形質転換系の確立など、分子生物学的手法が使える状況が整いつつあり、外来生物のモデル研究系とすることができる。


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