| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S14-2

熱帯降雨林生態系への気候変動と伐採の影響:生態系モデルを用いた熱帯降雨林の長期動態の予測

*今井伸夫,喜多智,北山兼弘(京大・生態研)

ボルネオ島の熱帯降雨林では、今もなお急速に森林の減少、劣化が進んでいる。森林の劣化によって木材生産機能も低下するため、より経済性の高い土地への転換圧力が強まり森林消失が加速している。一方、高緯度地域に比べて影響は小さいとはいえ、熱帯降雨林においても将来の気温上昇や降雨パターンの変化が予測されている。そのため、将来の気候変動環境下における持続的な生態系管理手法の検討が必要とされている。そうした中サバ州デラマコットでは、伐採量や表層土壌への負荷を低減させた「低インパクト伐採」が導入されている。本研究では、低インパクト伐採を含む持続的な森林管理手法の検討を目的に、森林の重要な機能の一つである炭素貯留機能に注目し、1.森林伐採が熱帯降雨林生態系の炭素貯留量に及ぼす影響と、2.生態系モデル(CENTURY)を用いた様々な伐採・気候変動シナリオ下での長期の炭素動態を調べた。生態系全体の炭素貯留量は、破壊的な従来型伐採によって100tC/ha以上減少するが、低インパクト伐採は減少量を半分以下に軽減していた。モデルによる炭素動態予測の結果、温暖化が生じると生態系炭素量は微増したが、これに1997-98年エルニーニョを模した旱魃が高頻度で生じると炭素量は漸減した。これに従来型伐採を行うと、バイオマスは激減する一方、地下部ネクロマス(枯死した枝葉・幹・根)は大幅に増加した。ネクロマスが分解されていく30-40年間炭素放出は続き、生態系炭素量は100年経過しても原生林レベルにまで回復しなかった。一方、低インパクトではネクロマスやバイオマスはより早く原生林レベルに戻った。地上部に7割以上の炭素が貯留する熱帯降雨林では、商業木以外の樹木をなるべく多く切り残しネクロマス化させてしまう量を極力低減させる施業が、炭素貯留量および木材資源を持続的に維持できると考えられる。


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