| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S16-3

建物柱材の年輪解析からみた木材利用

木村勝彦(福島大学)

縄文人が単なる狩猟採集だけでなく、森林植生を積極的に改変してきたことは、近年の花粉分析などの研究から明らかになってきた。加えて、大型の建築材などが保存された低湿地遺跡の発掘が進み、出土木材から縄文人の樹木さらには森林利用をかいま見る手段が得られるようになった。特に、年輪解析を用いることにより、建築材として用いられた樹木の生育環境や、管理方法、伐採のスケジュール、伐採季節など、生態学的に現存の森林と比較できるようなデータを得ることができる。

縄文時代に建築材として最も多用されていたのはクリである。クリ林は吉川氏の花粉分析からの検討にあるように、居住域付近に存在していたらしいことがわかってきた。各地の遺跡から出土した建物の柱材としての木柱の年輪解析からも、クリはほとんど例外なく初期成長が速く、光条件の良いところで生育していたことが推察され、上記の推定を支持している。一方で、クリとともにコナラ属の柱材が多く出土した新潟県青田遺跡では、平均成長速度で3倍以上もクリの方が速く、コナラはクリとは異なる林分から得られていたことが示唆された。さらに、青田遺跡で明らかになった年輪年代学による伐採スケジュールの結果等を加えて縄文人の森林利用を検討する。

ところで、縄文時代の森林を現在の我々の持つ知識に照らして解釈する際の大きな問題点としてあげられるのは、生態学者が低地の自然植生を知らないことである。縄文人の多く居住していた低地や台地上の平坦面の植生は、日本中のいたる所で人為的な改変を長期にわたって強く受けてきた場所でもあり、原植生が残っていることはほとんどない。花粉分析はこの点についての重要な示唆を与えてくれるが、森林の状態を生態学的な視点で見える形にしてくれるものとして、埋没林があげられる。そこで、東北地方を中心としたいくつかの埋没林の例をあげ、低地の森林についての議論を合わせておこなう。


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