| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T08-3

河川敷樹木群の動態

星野義延(東農工大大学院)

日本の多くの河川では、澪筋の深掘れによる河道の複断面化が生じ、洪水による攪乱頻度が低下し、表層に細粒土砂が堆積した河川敷が多くなってきた。このような河川敷では著しい樹林化が進行し、特に、外来樹木であるハリエンジュの分布拡大が著しい。これにはハリエンジュが細粒土砂の堆積した場所に水平根を伸ばし、そこから萌芽する幹の成長によって樹群面積を増加させていることが大きく関わっている。多摩川中流域に位置する永田地区の河川敷では1980年代ごろから樹林化が顕著になってきた。1995年の樹木調査では、ハリエンジュが根元直径5cm以上の幹本数の8割近くを占め、幹断面積合計比でも74%という高い割合で他の樹種を圧倒して優占していた。2007年の再調査の結果によると、ハリエンジュの幹本数は頭打ちとなる傾向が出てきているものの、幹断面積合計は依然として増加傾向にある。ハリエンジュの新規加入幹は集中分布する傾向があり、既存のハリエンジュ林の林縁部で多くなっていた。ハリエンジュ以外ではヌルデ、エノキ、ミズキ、オニグルミ、トキワサンザシなどの幹本数が増加傾向を示し、タチヤナギとイヌコリヤナギが減少傾向を示した。増加した樹木の新出場所は樹種ごとに違いがあり、ハリエンジュ林内ではエノキの稚樹本数の増加が著しく、ハリエンジュ林の縁ではヌルデが多くなった。トキワサンザシはハリエンジュ林の分布していない表層の細粒堆積物の堆積厚が小さく、礫が露出しているような場所で増加していた。多摩川永田地区では、ハリエンジュの伐採・抜根を行って礫河原を造成する自然再生事業が一部で実施されたが、地区全体でみると依然としてハリエンジュの卓越した森林が広がっている。これに加えて、トキワサンザシのような礫地に侵入する外来樹木が増加し、さらに、最近ではアズマネザサの繁茂も目立つようになってきており、河川敷の樹林化・藪化が一層進行しているといえる。


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