| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T10-3

木材を分解する担子菌類はどのように多様化してきたのか? 〜アカキクラゲ類をモデルとした一考察〜

白水貴(筑波大・菅平センター)

現在の陸上生態系における最も重要な分解者である木材腐朽菌類の進化過程を解明することは、生態系における分解者の役割や物質循環の成り立ちを考えていく上で重要な課題である。本講演では木材腐朽菌類の進化についてアカキクラゲ類をモデルに考えていきたい。

アカキクラゲ類はいわゆるキノコをつくる種の大半が属する担子菌門ハラタケ亜門のアカキクラゲ綱に分類される菌群である。この綱は1目2科8属109種からなる比較的小さなグループで、ゼラチン質から軟骨質のキクラゲに類似した子実体を形成し、これが橙色から黄色を呈することから“アカ”キクラゲという和名で呼ばれている。本綱の全既知種は針葉樹や広葉樹の木材を分解するセルロース分解性の木材腐朽菌であることから、これまでの進化過程において木材腐朽という生活様式を一貫して維持してきたと推定される。さらに近年の分子系統解析の結果は、本綱が担子菌類の系統の中でも初期に分岐した木材腐朽菌類である可能性を示唆した。これらの特徴から、演者はアカキクラゲ類を木材腐朽菌類の進化を考える上で好適なモデルであると考え、研究を進めている。

本講演では、これまでに得られているアカキクラゲ類の樹種選択性や分子系統解析の結果から木材腐朽菌類の進化過程を推測する。さらに、これらの強力な分解者の進化・変遷から見た陸上生態系の発達過程に関する話題を提供したい。


日本生態学会