| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T17-2

サロベツ湿原の植生形成過程

紀藤典夫(北海道教育大)・シュテファン・ホーテス(ギーセン大学)

サロベツ湿原は,低地に形成された湿原にもかかわらず,高層湿原がよく発達した湿原として知られているが,この広大な湿原植生の形成史に焦点をあてた研究は行われていない.本研究は,複数のボーリングコアの試料を用いて,花粉分析および植物大型遺体の分析によりサロベツ湿原の植生形成過程を解明することを目的とした.

サロベツ湿原は,海跡湖の埋積により形成されたことが知られている.湿原堆積物の堆積開始の年代は,本研究の試料および既存研究の結果をまとめると,最も古い地点で6600cal yr BP,湿原の中央付近で6400cal yr BP前後で,約4000cal yr BPにはかなりの範囲が湿原化していた.縄文海進最盛期以降の海水準の低下が湿原の形成を促したと考えられる.

湿原植生の変化過程は,本研究で分析したいずれの地点においても,イネ科,カヤツリグサ科やシダ胞子が高い割合を占める低層湿原の植生から始まる.その後,表層に向かってミズゴケ属が増加する傾向はいずれの地点でも同様であるが,現在に至る植生変化の過程はそれぞれの地点で異なっている.湿原中央部においては,3000cal yr BP前後からヤチヤナギ属やモチノキ属,イボタ属-ハシドイ属の増加が顕著で,湿原の地下水位の低下が推定される.それ以外の湿原植生の変化時期はそれぞれの地点によって異なり,気候変化や地下水位の変化などの広域的に影響を与える要因が契機となって植生の変化が進んだとは考えにくい.それぞれの地点における植生変遷の過程で,自生的な結果として形成されたと推定される.


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