| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T27-4

湖沼・水田水系におけるフナ類の繁殖地好適性:稚魚密度、稚魚サイズ、移動に着目して

小関右介(中央水研)

湖沼・水田水系は、湖沼ー河川ー水路―水田という環境特性の異なる生息地がむすびついた生息地ネットワークとみなすことができる。こうした生息地ネットワークにおける魚類の生息地利用様式とその生態学的帰結を理解することは、水系分断化の影響を評価する上で重要な意味をもつ。本研究は、諏訪湖水系において、繁殖期に湖から流入河川、さらには水路へと移動し、産卵を行うフナ類の繁殖地利用様式を調査し、各生息地の繁殖地としての好適性の評価をおこなった。2シーズンにわたる調査の結果、1)稚魚密度は、水田>水路>河川>湖の順で高く、2)体サイズも同様のパターンを示したことから、水田および周辺水路が好適な繁殖地であるらしいことがわかった。しかし、一時的水域である水田水系においては干上がりによる死亡リスクが懸念される。そこで、土用干し(稲の生育期における約一週間の落水)における稚魚の生残と脱出を調べた。その結果、1)水田内での死亡はあまり観察されず、2)うけを用いた捕獲調査から、相当数の稚魚の周辺水路への脱出が確認され、さらに、3)土用干し前の水路内個体数と周辺水田からの脱出個体数の合計よりも、土用干し後の水路内個体数が小さいことから、河川への移出が起こっていることが示され、懸念された土用干しによる死亡リスクは比較的小さいことがわかった。以上の結果から、水田水系はフナ類の優れた繁殖地であり、再生産に大きく貢献していると結論づけることができる。したがって、湖ー水田水系間の分断化(河川における堰堤や水門の設置など)は、フナ類の存続に重大な影響を与える可能性がある。


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