| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-12

雪解け時期の違いが稚樹の開葉フェノロジーにおよぼす影響

*伊藤公一(鳥取大院・農), 佐野淳之(鳥取大・農・FSC)

多雪地帯における林床植物の芽生えや稚樹の開葉時期は雪解け時期に依存している。そのため下層に存在する植物が春先の光を有効に活用できるかどうかは積雪量によって左右される。しかし、春先のフェノロジーに関する研究は草原性の草本植物を対象としたものが多く、森林内の稚樹が積雪量の違いに対してどのように反応するのかについてはあまり研究されていない。本研究では同一林分内で積雪量の異なる2つのサイトを比較することで、雪解け時期の違いが稚樹の開葉フェノロジーにどのような影響を与えるのかを検討した。

調査は、2008年と2009年に鳥取大学教育研究林「蒜山の森」におけるアカマツに広葉樹の混交する二次林内で行った。林内の積雪量が異なる2つのサイトにおいて、最大積雪深と雪解け時期を記録し、樹高50 cm以下の落葉広葉樹の稚樹について、6段階で開葉度を記録した。対象樹種は2008年では高木種であるウワミズザクラ、亜高木種であるヤマモミジ、低木種であるクロモジ、オオカメノキで、2009年ではこれに高木種であるクリ、カスミザクラ、ヤマザクラを加えた合計7種であった。

サイト間の最大積雪深の差は両年とも40 cm程度であったが、2009年は積雪量が少なかったため2008年と比較すると雪解け時期が約2週間早かった。また両年とも雪解け時期が早かったサイトでは、ほとんどの樹種で開葉時期が早くなった。また2009年ではほとんどの樹種でサイト間の開葉時期の差は小さくなった。一方でウワミズザクラやヤマモミジではこのような傾向はみられなかった。これらのことから、全体的にみると積雪が多い年における稚樹の開葉時期は雪解け時期に大きく左右されるものの、積雪が少ない年では稚樹の開葉時期は雪解け時期にあまり影響を受けないと考えられる。また、樹種や生活型によってもそれぞれに特徴的な反応がみられることが示唆された。


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