| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-03

生態ネットワークにおけるキーストーン種の特定

佐藤一憲(静岡大・工)

生態系を保全するためには,他の多くの種に影響を与えているキーストーン種がどの種であるのかを明らかにすることは極めて重要である.ここでは,生態系を生物種間の相互作用を表す生態ネットワークとして捉えて,特に,これまでに多くの研究の蓄積がある捕食-被食関係を表す食物網に限定して考えることにする.Jordan (1999)が定義したキーストーン指数は,ある種を取り除いたときに,他のすべての種に与える直接的あるいは間接的な影響を考慮するもので,食物網におけるキーストーン種を定量的に特定した先駆的な研究である.それに先駆けて,Pimm (1979)は''種の取り除きによる安定性''(species deletion stability)という概念を提唱して,ある種が取り除かれたときに残りのすべての種が共存する安定な平衡点があるかどうかという判定基準を設けた.これを用いて,Pimm (1980)は,ある種を取り除くことによって他の種が2次絶滅する確率の大きさから,他の種に与える影響の程度を評価した.Jordan のキーストーン指数はネットワーク構造が与えられれば決まる静的なモデルであるために,数理的な解析が容易である.一方,Pimm の''種の取り除きによる安定性''は,Lotka-Volterraモデルを用いた動的なモデルによって得られる.Jordan (1999)ではこの両者を比較して大きな相違が見られることを示した.ここでは,Jordanに類似したアイディアを用いて,Pimmの得られた結果ともより整合性のあるようなキーストーン指数を提案する.さらに,このような概念は,ノードを局所個体群に対応させてネットワーク全体がメタ個体群であるような場合についても,重要な局所個体群の空間的な場所を特定することができると考えられる.


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