| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-11

洞爺湖中島におけるエゾシカ個体群の食性変化に伴う爆発的増加と崩壊の要因解析

*今野建志郎(横国大・環情),梶光一(農工大・農),松田裕之(横国大・環情)

世界各地で観測されている有蹄類の個体数の爆発的増加(irruption)や崩壊(crash)現象は,自然生態系への影響をもたらし,深刻な問題となっている.しかし,このような事例や長期間の調査データなどは限られており,しかも個体数に注目した研究が多く,餌資源はほとんど調べられていない.それゆえ,その要因はほとんど知られていない.

北海道の南西に位置する洞爺湖中島は,北海道でエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の大発生による森林への影響が最も強く表れている場所であり,長期間シカや植生の調査が行われている.中島のシカの生息密度は,餌資源に強く依存しており,餌資源が豊富であると爆発的に増加するが,餌資源が不足すると群れは崩壊する.しかしその都度食性をシフトさせことによって,個体数は前回よりも低い増加率で高いピークに達する.このような事例は既存の研究で示されているパラダイムのどれにも合致しない.

そこでそれぞれの餌種に対して,依存しているシカが異なるという仮説を立てた.そしてその仮説を餌資源のモデルを個体群動態モデルに組み込むことによって表現した.すると,現実の中島のシカ個体群動態とよく合致した.この結果は,同じ個体群のシカでも食性が大きく異なり,なんらかの進化が生じている可能性があることを示唆する.よって,このような爆発的増加と崩壊を繰り返すことができる背景として,多くの餌資源を他種との競争なしで利用できるという要因が考えられるのかもしれない.


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