| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-07

流下水生昆虫の移入と河川物理環境との関係

*望月成(東海大・院・理工),谷野賢二,斎藤裕美(東海大・生物理工)

河川の流れは、河床に生息する水生昆虫の移入率や分布に影響し、群集構造を決定する重要な要因である。特に、河床基質の背後に存在する滞留域は水の流れにのって移動を行う水生昆虫にとって着底場を提供すると考えられる。しかし、このような滞留域の流れの状況(流況)については、河川の流速や河床基質の構造により、生態学では馴染みのうすい水理学的性質が複雑に変化するため、十分な解析が行われていない。そこで本研究では、流速の大きさや河床基質の構造による水の流れとそれに伴う水生昆虫の着底を検討した。はじめに、数値シミュレーションと流動水槽実験より、流速と基質の構造に伴う基質背後に形成される滞留域の流況の特徴を解析した。次に、流動水槽を用いて水生昆虫を模倣した物体(比重0.99のプラスチック球、以後BB弾と呼ぶ)と3種の水生昆虫を流し、その流跡を解析した。最後に、野外実験にて構造の異なる人工基質上に形成された水生昆虫の群集を調べた。数値シミュレーションによれば算出された流況の特徴は、基質背後の滞留域に弱い循環流の存在と、流速の大きさに対応した滞留域内の規模であった。これらは流動水槽内で電磁流速計を用いて計測された流況と同じ傾向であった。シミュレーションは滞留域の流況をある程度予測できる可能性を示した。BB弾の流跡解析では、BB弾は滞流域が大きくなる程、また、流速が15から25cm/sの間で循環流にのりやすかった。水生昆虫の流跡は、昆虫の形態により異なった。野外実験では、人工基質の滞流域の規模の違いにより水生昆虫の群集指標は異なった。これらの結果は、流速や基質構造に伴う滞留域の規模が水を流れる物体と水生昆虫の着底率を決定することを示している。さらに、水生昆虫の種による形態の違いは、着底経路や着底率を変化させる可能性があると考えられる。


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