| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F1-09

慣習・制度下でのコモンズの維持システムの進化ゲーム解析

*中丸麻由子(東工大・社理工),小池心平(東工大・社理工),辻本昌弘(東北大・文)

コモンズにおける持続可能な生態系利用を模索することは生態学にとって重要なトピックである。公共財ゲームでは、参加者がある額を投資し、それをプールして利息を加えたものを全員に均等分配する。地球温暖化問題では、二酸化炭素削減に協力するしないに関わらず、全員が地球環境より同じ利益を受けることが多く、公共財ゲームは的確にモデル化したものといえよう。一方で、別の構造の場合もある。例えば、全員が一斉に農業用水を使うよりは、水路を使う順番を決めたほうが作物の育成を促す場合などである。つまり、輪番で一人ずつ利益を受け取るという取り決め(制度や慣習)が効率的な場合である。そこで上記のような状況を回転非分割財ゲームと定式化し、制度・慣習が維持する条件を検討する。

本発表では回転非分割財ゲームの適用例として、rotating savings and credit associationを取り上げる。日本では頼母子講といわれ、世界中に普遍的に存在する、資金を集めるための慣習的制度である。例えば、10人で講を作り、1人につき1万円を出資すると10万円ほどプールされ、1人が受け取る。これを10回ほど繰り返すと全員が資金を受け取る。早く資金を受け取るほど、事業に投資して利潤を上げることも可能となる。すると一番利益を上げるのは、初回に資金を受領後、出資をやめる人(デフォルト)となる。もし多くの人がデフォルトをしてしまうと、講が維持できなくなるだろう。そこで進化シミュレーションを用いて、回転非分割財ゲームを基に、講が維持するために必要な慣習ルールを探った。すると、個人の評判の善悪によって講への加入者を決めるだけではなく、資金受領前に投資をしなかった人は資金受領権利を失うというルールがあって初めて、デフォルトを防ぎ、講が維持される事が分かった。


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