| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-01

カワウ営巣林における森林衰退―回復過程解明の試み―空中写真判読と人文・社会科学的手法を用いた調査方法の検討―

*亀田佳代子(琵琶湖博), 藤井弘章(近畿大・文芸), 前迫ゆり(大阪産業大・人間環境)・石田朗(愛知カワウ調査研), 牧野厚史(琵琶湖博)

カワウが繁殖する森林では、枝葉の折り取りや排泄物の供給により森林が急速に衰退する。近年のカワウの増加により、コロニーのある森林では景観悪化や地域固有性の高い植生の劣化などが問題となっている。現在森林衰退が問題となっているカワウ営巣林への対応策の検討には、回復の要件特定の前提として、長期的な森林変遷過程のデータ化が必要である。だが、人為的攪乱下での長期的な森林変遷の解析方法は確立しておらず、カワウ営巣による森林の衰退−回復過程の研究もあまりない。そこで、人文・社会科学的手法を加味して営巣林の衰退−回復過程をデータ化する方法を検討した。

調査は、長期にわたりカワウが営巣する愛知県知多郡美浜町の「鵜の山」で行った。カワウの糞採取が最近まで行われていた同地では、文献調査および聞き取り調査が可能である。そこで、年代別の空中写真を判読し、GISにより、判読結果に既存文献、住民からの聞き取り、公文書館所蔵文献調査結果を加え、カワウコロニーと森林植生の長期的変遷過程についての情報抽出を試みた。

既存研究によるカワウ営巣範囲の変遷をもとに、1947-1995年の空中写真の判読を行ったところ、カワウの営巣と移動により、森林から裸地や草原への退行遷移が生じ、さらに森林へと回復する様子が確認できた。これに聞き取り調査および文献調査から得た植林の年代および範囲を重ねると、短期間での森林回復は人間の植林によるものと判明した。これらの結果からは、カワウ営巣林の動態をデータ化する手法として空中写真判読が有効なこと、人間の利用空間と重なるハビタットでは、年代と地図化を意識した聞き取り調査や公文書の活用が、写真判読法による情報抽出の有効性を増加させる可能性が示唆された。


日本生態学会