| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-12

小笠原諸島における外来生物ウシガエルの根絶達成

*戸田光彦(自然研),苅部治紀(神奈川県博)

ウシガエルRana catesbeianaは北米原産の大型のカエルで、水生生物を広く捕食することから特定外来生物に指定されている。近年の小笠原諸島では父島列島の弟島のみに定着が知られていたが、弟島の水辺には小笠原固有の5種のトンボ類が見られることから、ウシガエル排除の必要性が高いと判断された。演者らは環境省の自然再生事業の一環として、2004年より弟島において本種の防除を実施した。

2005年までの調査によって、弟島のウシガエル生息地は島の北端近くに限定され、産卵場所は2箇所の池に限られることが判明した。2005年6月以降、手捕りに加えてアナゴ漁用のカゴワナを用いることによって、効率よくウシガエルを捕獲することができた。これらの池には他の両生類や淡水魚類、カメ類、甲殻類等が生息せず、混獲はほとんど生じなかった。冬鳥(カモ類等)の混獲が確認されたことから、冬期(概ね11月から3月頃)には罠を回収してウシガエルのみを捕獲するようにした。

弟島において、これまでに64個体のウシガエル成体・幼体と多数の卵・幼生が排除された。主たる生息地である鹿ノ浜では2006年6月以降、3年7ヶ月にわたり記録がなく、最後の繁殖確認は2005年6月で、4年7ヶ月にわたり繁殖は停止している。個体数が激減した2006年4月以降、夜間の自動録音装置を用いた鳴声のモニタリングを継続しているが、鳴声は同年6月までにわずかに確認されたのみで、2006年7月以降は全く記録されていない。本種の変態から成熟までの期間は2〜3年間とされることから、未成熟個体が池から離れて生存している可能性も小さいと考えられる。

以上より、弟島のウシガエルは完全に排除されたものと判断された。これは、国内でほとんど例のない本種の根絶事例であり、かつ、ひとつの諸島からの完全排除が達成された初めての事例と考えられる。


日本生態学会