| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I1-05

重金属汚染リスクの指標としてのアブラハヤの基礎生態

*三浦彩,三浦剛,攝待尚子,宍戸聖美,棟方有宗(宮城教育大)

宮城県二迫川水系鉛川では、閉山した旧細倉鉱山からの重金属類(主に銅、亜鉛、カドミウム、鉛)による汚染が今も続いている。コイ科魚類の一種であるアブラハヤ(Phoxinus lagowskii steindachneri)は、鉛川(以下、汚染河川)と対照区の非汚染河川の双方に比較的多く生息していることが判明したが、重金属による汚染がある鉛川では、本種の稚魚は殆ど確認されなかった。そこで、鉛川ではアブラハヤが再生産を行っても重金属類への耐性の弱い稚魚が減耗するか、あるいは汚染が少ない本流や支流から成魚が移動、定着するものと仮定し、二迫川水系における本種の移動を知るための蛍光イラストマー標識放流調査を行った。定期的な再捕調査の結果、本種は汚染河川に流入する支流や、汚染河川が流入する本流(二迫川)から鉛川に移動することが示唆された。

我々は、東日本の河川に見られる普通種であるアブラハヤを重金属汚染リスク評価の指標とするため、本種の移動の様式や範囲などの基礎生態を調べている。この調査の一環として、重金属汚染のない宮城県阿武隈川水系の荒川をモデル河川とし、同様に蛍光イラストマー標識による標識放流調査を行った。その結果、アブラハヤは水温の上昇する初夏に河川を数百メートルの規模で遡上し、また水温の低下する秋頃には多くの成魚が降河をするという、季節的な定型移動を行うことが示唆された。また一部の成魚は、遡上・または降河によって移動した先に定着した。このことから、鉛川に生息するアブラハヤの中には、定型的な遡上あるいは降河によって、非汚染の本流や支流から移動を行った個体が含まれていると考えられた。


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