| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I1-06

ここまで分かったミゾゴイの生態 〜なぜ、夜行性の鳥と言われてきたか〜

川名国男(バードライフ・アジア)

2006年から2009年の4年間にわたり,東京多摩西部において,ミゾゴイの生態調査を実施した。調査の結果,生態の一面が明らかになるにつれ,ミゾゴイは多くの点で誤解をされてきたことが分かった。

その第1は,夜行性の鳥とされ,英名もJapanese Night Heronであるが,本種は昼行性の鳥であることが明らかになった。繁殖期における雛への給餌活動は日中にのみ行なわれ,非繁殖期における採餌活動も日中のみで,いずれの場合も,親鳥は夜間に眠っていたのである。

また,和名の由来についても,ゴイサギ(五位鷺)に似ているから「溝五位」であると簡単に片付けられ,ゴイサギでもないのに学名の種小名にGorsachius goisagiと付けられている。演者は,奈良時代に始まる宮中儀式の衣装令にある「五位の色」=緋色(ひいろ・あけ・赤茶)こそ,ミゾゴイの名の由来ではないか,と考えている。溝(小さな水の流れや溜り)に佇むミゾゴの姿は,「五位の色」の衣をまとった宮廷の人のようである。

講演は,これまでの調査結果を踏まえ,次の6項目を中心に報告して,ミゾゴイへの理解を深めたい。1. 繁殖ステージ 2. 囀り活動 3. 繁殖期における雛への給餌活動 4. 非繁殖期における飼育下での採餌活動 5. 行動の新しい知見(ソングポストをめぐる争い 給餌の方法 抱雛中の反芻給餌 育雛期の主食 巣内雛の捕食練習 雛の餌乞い行動 捕食の方法 竹林と幼鳥の保護色 育雛中の親鳥の行動範囲 擬態行動) 6.なぜ,夜行性の鳥と言われてきたか。

ミゾゴイは,昔から農耕文化に支えられ,人々の身近に生きてきた。しかし今日,繁殖地の開発により人知れず滅び行く運命にある。繁殖地は,湿潤な土壌からなる常緑樹・落葉樹・竹林との混交林で,そこには在来の動植物が豊かに息づいている。日本の多様な生物の代表として,種の保護と繁殖地の保全が喫緊の課題である。


日本生態学会