| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-04

個体発生ニッチシフトと食物網結合と代替安定状態

仲澤剛史(京都大・生態研セ,台湾大・海洋研)

幼体と成体が異なる食物網に組み込まれているとき、個体発生ニッチシフト(ontogenetic niche shit)によってそれらの食物網が結合される。先行研究では、このような系では代替安定状態(alternative stable state; ASS)やレジームシフトが生じる可能性があることが指摘されてきた。しかし、いずれの研究も、幼体と成体と各ステージ特有の資源のみから構成される最も単純な系しか考えていない。ところが、自然界には多様な食物網結合パタンが見出されるため、どのような構造でASSが起こるのかを理解する必要がある。本研究では、とくに各ステージの生息地における食物連鎖長や栄養段階に着目して、ASSと食物網構造の関係を調べた。モデル解析の結果、幼体と成体の両方が以下の二つの条件の一方を満たせば、ASSは起こりえることが示された。(1)最上位捕食者である。(2)最上位捕食者に捕食される中間捕食者を持つ。これらのメカニズムは、(1)強い密度効果による繁殖と成熟の過補償効果と、(2)ステージ内の餌競争を強くするトップダウンカスケードである。さらに、各ステージにおける食物連鎖長や栄養段階はASSが起こる環境条件に複雑に影響した。これらの結果から、種の絶滅や侵入といった局所群集構造の人為的改変が空間的に波及し、環境変動に対する系の復元力(resilience)を変化させることで、より大きな空間スケールで群集構造のレジームシフトを引き起こすかもしれない、という新しい仮説を提唱する。


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