| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K1-02

ボルネオ島におけるフネミノキの個体群動態と一斉開花

山田俊弘(広大総科)*,鈴木英治(鹿児島大理),ズイデマ ピーター(ユトレヒト大理)

1. インドネシア西カリマンタン州の熱帯雨林においてフネミノキの成長、死亡、繁殖を1992年から1995年の3年間観察した。本種は数年に一度しか結実しないが、1993年に結実を観察することができた。これらのデータをもとにフネミノキの個体群動態をstochastic transition matrix modelを用いて解析した。

2. 実生は散布後1年間、非常に高い死亡にさらされた(91.9% yr-1); この値は稚樹の死亡率(5% yr-1)に比べてとても高い。成熟木 (DBH>20 cm) の死亡率は約 1% yr-1であった。

3. Stochastic matrix model により、1993年に観察された程度の結実が14年に1度あれば個体群は維持される(=個体群増加速度が1.0以上となる)ことが明らかとなった。14年の結実間隔は、熱帯域で観察されてきたマスティングの間隔よりずっと長いため、フネミノキの個体群は現在維持されていると考えられる。Stochastic elasticity analysis により、個体群増加速度は繁殖にきわめて鈍感で、成熟木の死亡に敏感であることが分かった

4. 一度の結実で生産される種子量が結実の間隔に比例して増加したとしても、マスティングは毎年結実に比べて個体群動態的に不利となる。なぜなら、マスティングでは、結実間隔が長ければ長いほど、次回結実のための養分を体に貯めたまま結実前に死亡する成熟木のリスクが増えるからである。しかし実際には個体群増加速度は、一度の結実で生産される種子量が結実の間隔に比例して増加するならば、ほとんど減少しなかった。したがって一度の結実で生産される種子量が結実の間隔に比例して増加する限り、マスティングは毎年結実に比べてほとんど不利にならないことが分かった。


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