| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K1-12

散孔材樹種における道管径の季節変化

*大橋伸太,岡田直紀(京大院・農)

散孔材は年輪内に同じような大きさの道管が一様に分布しているように見えるが,よく観察すると道管の径や個数が1年輪内で変化していることがわかる.道管の径や個数の変化は材の水分通導性や道管閉塞への脆弱性を大きく左右するため,そのような変化がいつ何を引き金として起こるのかを解明することは樹木の生活史や水分生理特性を理解する上で重要である.既往の研究では乾燥や貧栄養条件下において道管径が減少するということが報告されているが,自然条件下における1年輪内での道管径の変化がどのようにして生じるのかは明らかになっていない.本研究では,樹木の水分条件の変化が道管径の変化を引き起こす主な要因ではないかと考え,それぞれの季節変化と関連性を調べることを目的とした.

調査は京都大学構内に生育する散孔材3樹種(アラカシ・カツラ・ユリノキ)を対象とし,5月下旬から9月下旬まで行った.4週間毎に成長錐でコア試料を採取し,各期間に形成された道管を推定した.道管径は画像解析により測定した.また,樹木の水分条件や水分ストレスを調べるため,夜明け前と日中の葉の水ポテンシャルを毎週測定した.

道管径は年輪の始めから増加し,ある時期から減少するという山型の変化パターンが全樹種で見られたが,どの時期から減少し始めるかは樹種により異なった.また,調査期間を通じての日中の葉の水ポテンシャルは全ての樹種で類似した変化パターンを示したが,夜明け前の葉の水ポテンシャルは樹種によって変化パターンが異なった.それぞれの季節変化の比較より,ユリノキにおいて道管径と夜明け前の葉の水ポテンシャルの変化が非常によく似ていることがわかった.一方で他の2樹種では関連性はほとんど見られなかった.これらのことから,道管径の季節変化を引き起こす要因は樹種によって異なるが,水分条件が主な要因の一つとなりうることが示唆された.


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