| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-003

本州中部のブナ林におけるNDVIの広域的変動と気象要因との関係

阿部 聖哉(電中研・生物環境)

広域観測データのNDVI値は,気候変動が植生に及ぼす影響を広域的に捉えるのに適している.北米では,NDVIを用いて乾燥化がマツ林に及ぼす影響を解析した研究(Breshearsら2005)があるが,日本では森林の広域的評価はほとんど行なわれていない.本研究では,代表的な自然林であるブナ林を対象として,NDVIを用いた生育状態の評価を行なった.

NDVIデータは,国土地理院のMODISコンポジットデータを用いた.2004〜2008年のデータのうち,最も気温の高い8月の本州中部地域のデータを抽出した.ブナ林は,第5回環境省自然環境保全基礎調査の植生図から,主にブナの優占あるいは生育する群集のデータを抽出した.両データをオーバーレイすることにより,ブナ林域におけるNDVIのGISデータを構築した.

解析の結果,2005と2008年に太平洋側の一部地域において,ブナ林のNDVIの低下が生じていることが明らかとなった. NDVIの低下が著しい2005年において,アメダスデータの Krigingによって気温や降水量の空間分布を推定し,気象要因との関連性を調べた.その結果,NDVIと年平均気温や最大風速との間に関連性は認められず,年降水量との間にのみ関連性が認められた.NDVIの低下は年降水量が2100mm未満の地域で発生しており,900mm未満の地域ではブナ林そのものがほとんど分布していないことが分かった.さらにNDVIの年次変動と,近隣観測地点の年降水量との関係を解析したところ,r=0.38(p<0.01)の有意な相関が認められた.

以上の結果から,本州中部太平洋側のブナ林の生育状態や分布には,極端な少雨年の降水量が影響している可能性が示唆された.近年,極端少雨は増加傾向にあり,ブナ林の生育状態を継続的に監視する必要がある.


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