| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-020

晩氷期の気候変動に伴う近畿地方中部の植生変化

百原 新*(千葉大・園芸),三宅 尚(高知大・理),山本浩久(岩出第二中),沖津 進(千葉大・園芸)

晩氷期の急激な温暖化に伴い,中部・西南日本の植生は最終氷期の針葉樹優占の植生から落葉広葉樹林へと急速に変化した.本研究ではAMS年代による編年に基づき,奈良県五條市の約15000−12400炭素年の花粉化石と大型植物化石を検討した.15004−13985yBPの5層準の大型植物化石群はトウヒ,バラモミ類,チョウセンゴヨウ,カラマツ,ツガ属を含む針葉樹から主に構成され,ブナ,コナラ属,マンサク,オオモミジといった落葉広葉樹も含まれていた.上位の3層準(12410-12380yBP)からは針葉樹は産出せず,サワシバ,アサダ属,カエデ属,ウルシ属,トチノキといった落葉広葉樹だけが産出した.花粉群は15000yBP前後でコナラ亜属,ハンノキ属,ハシバミ属の割合が高いが,13985yBPまではマツ属単維管束亜属花粉の割合が多い.13985yBPの直上の層準では針葉樹花粉が減少しカバノキ属花粉とシダ胞子が増加した.12400yBP前後の層準では針葉樹花粉は極めて低率になってコナラ亜属とクマシデ属が増加した.イネ科とヨモギ属を含む草本花粉の割合が圧倒的に多くなり,微粒炭濃度も増加した.グリーンランド氷床コア資料や他地域の花粉分析結果と比較すると,15000yBPから14000yBPへの落葉樹が優占する植生からチョウセンゴヨウが優占する植生への変化,14000yBP前後でカバノキ属とカラマツが増加する傾向は,この時代の北半球高緯度地域での気候の寒冷化(Heinrich event 1)の影響と考えられる.12,400yBP前後の層準では,それまで針葉樹林の中で小規模な林分を形成していた落葉広葉樹が,晩氷期の急激な温暖化(D-O event 1)に伴って急速に拡大したことが示唆される.


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