| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-038

乗鞍山麓亜高山帯における渓畔域の植生と地形

*近藤博史, 北川涼,酒井暁子, 大野啓一(横浜国立大・院・環境情報)

渓畔域は環境が周囲と異なるため、独自の植物群落である渓畔林が発達する。これまで渓畔林に関する研究の多くは主に山地帯を対象としている。例えば亜高山帯ではオオバヤナギ等が優占する渓畔林が発達するが、亜高山帯渓畔林を対象とした研究は乏しく、それらの空間分布や成立立地についてほとんど明らかにされていない。亜高山帯の多くは人為的撹乱が比較的小さく保全価値が高い。またその渓畔林は河川の源流域に位置する場合が多く、我々に大きな生態系サービスを与えている。したがって亜高山帯の渓畔域において基礎的知見を得ることは重要である。本研究では、乗鞍山麓の北西部に位置する五色ヶ原・蛇出沢流域において、亜高山渓畔林の組成を明らかにし、その空間分布と地形との対応を検討した。

まず、植物社会学的調査により群落区分を行った。また、横断測量を行い、区間毎に出現した樹種を記録した。さらに、空中写真判読より地形区分を行った。

この渓畔域は組成的に1)ヤマガラシ−ヤマハハコ群落、2)ヤハズハンノキ群落、3)オオバヤナギ−オノエヤナギ群落の3タイプに区分され、1)2)はそれぞれ2つの下位単位に区分された。地形区分では、流路、下位氾濫原、上位氾濫原、土石流堆積地、崩壊地、崖錐斜面が区分できた。

これらの結果から、亜高山帯では氾濫原でヤナギ類が優占するものの、山地帯とは異なり崖錐斜面には渓畔域を特徴づける樹種は存在せず、多雪地帯の崩壊地に一般に見られるヤハズハンノキやダケカンバが優占する群落が分布することが明らかとなった。地表の安定性に着目すると、最も撹乱頻度が高い氾濫原にヤマガラシ−ヤマハハコ群落、オオバヤナギ−オノエヤナギ群落が成立し、立地が安定するにつれ、ヤハズハンノキ群落の出現頻度が高くなり、さらにシラビソ群落へ移行すると考えられた。


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