| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-099

南極の湖沼底に生育する蘚類の分類の再検討および遺伝的多様性について

*加藤健吾(総研大・極域科学),伊村智, 神田啓史(極地研)

一般的に南極の陸上植物は露岩域と呼ばれる地表面が露出している地帯において細々と生育している。それに対して、昭和基地周辺の露岩域に点在する多数の湖沼の底には、地上の貧弱な植生とは異なり、Bryum sp. と Leptobryum sp. の2種の水生の蘚類(コケ植物)と藻類により構成される豊富かつ特異な植生が存在することが明らかとなっている。これらの湖沼は互いに空間的に隔離されているため、どのようにして2種の水生蘚類がこれらの湖沼間で分布を拡大したのか、その結果としてどのような遺伝的多様性を獲得しているのかを解明することは、様々な点で興味深い。しかし、現時点ではこれらの研究を行う以前の問題として、2種の水生蘚類の正確な分類が明らかとなっていない。そこでまず本研究では、水生蘚類の正確な分子系統学的位置を決定するべく、葉緑体遺伝子の塩基配列を用いた分子系統解析をおこなった。

分子系統解析の結果、湖沼底のBryum sp. と陸上に分布するBryum属の蘚類であるB. pseudotriquetrumとは同種であるという当初の推測は否定され、湖沼底のBryum sp. はデータベースに登録されていたB. uliginosumの塩基配列とほぼ相同な配列を有していた。また湖沼底のLeptobryum sp. に関しては、Leptobryum属として正確な記載がなされている2種(L. pyriforme, L. wilsonii )とは異なる塩基配列を有していることが明らかとなり、新種である可能性が示唆された。

現在は、近縁種との間でDNA配列と形態形質のさらなる比較を行い、種の決定を進めている。さらに遺伝的多様性の解析に関しては、DNAハプロタイプ解析もしくはマイクロサテライト解析の検討をおこなっている。


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