| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-215

樹木の成り年の進化における制限要因の役割 : 生産率・生存率と周期性・同調性

*白濱圭通, 福井眞, 山内淳(京大・生態研センター)

樹木の開花・種子生産量が大きく年変動しながら同調する現象はmastingと呼ばれ、多くの樹種で観察されてきた。mastingには、樹木が2年以上の間隔を置いて開花・結実する「周期性」と、それらが個体群内で同調する「同調性」という2つの側面がある。

mastingの進化をもたらす究極要因としては大きく分けて、大量の開花による送粉効率の上昇(送粉効率仮説)と大量の種子生産による捕食の回避(捕食者飽和仮説)の2つの仮説が提案されている(Kelly and Sork , 2002)。しかし、これらの要因がmastingを特徴づける二つ性質、周期性と同調性の進化にどのように関連しているのかについては、充分な理論的検討がなされてこなかった。本研究では、送粉効率仮説と捕食者飽和仮説の両方を考慮しながら周期性と同調性の進化プロセスを理論的に解析した。

本研究では、Yamauchi (1996)の数理モデルを拡張して解析を行なった。成熟樹木の生涯繁殖価を適応度と定義し、各時刻の繁殖成功は「花生産の増大による受粉率の促進」と「種子生産の増大による生存率の促進」を通じて高められると仮定した。また、「花生産」および「種子生産」には、その個体自身の生産だけでなく森林内の他個体の生産も影響する「結合効果」を組み込んだ。こうして定式化した適応度に基づいて、一定周期で同調して結実する野生型集団への、周期が1年長い変異型の侵入条件を検討して周期性の進化を調べるとともに、同調による利益を評価して同調性の進化を調べた。

解析の結果、花生産・種子生産のいずれの促進効果の下でも、結合効果は同調性の進化を促進する一方で、周期性の進化については抑制する傾向があることが分かった。これらのことから、必ずしも単一の促進効果が同調性と周期性を同時にもたらすとは限らないことが示された。


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