| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-275

茶草場として成立する半自然草地の多様性

楠本良延(農環研),稲垣栄洋(静岡県農林技研),岩崎亘典(農環研),平舘俊太郎(農環研),山本勝利(農環研)

東海地方の茶産地では、茶草場とよばれる半自然草地が存在し、貴重な草原性植物種群が生育している。静岡県掛川市東山地区を対象地とし、空中写真及びGISを用い解析した結果、茶園170haに対し、111haの茶草場が存在していた。茶園面積の約65%に達する広大な半自然草地が維持されていること明らかになった。

対象地の茶草場で50地点、比較対象として造成跡地等でススキが優占する10地点において植生調査を実施し、TWINSPANを用いて分類した結果、5つの植物群落タイプが得られた。ススキが優占するGr.1、ネサザが優占するGr.2は、主に面積の広い共有の採草地に該当し、草原性草本の在来種が豊富で多様度指数(H’)も高く、キキョウやノウルシなどの絶滅危惧種や希少種も確認された。造成跡地に見られるGr.3、水田跡地のGr.4は、ともにセイタカアワダチソウ等の外来植物が多く侵入していた。Gr.5は茶園脇に線状に見られる他の植物の少ないススキ草地であった。

全調査地点において、土壌サンプリング、光量子密度、斜面方位・角度、土壌水分、並びに地権者への土地改変履歴や管理実態のヒアリングを実施した。その結果、多様指数の高い群落タイプでは、土壌pHが低い、パッチ面積が広い、土地改変が行われていないことが把握できた。この結果は、草原性植物にダメージを与える大きな攪乱を受けていないことを示唆する。特に在来種の多様性に与える影響の大部分が土地改変であることがGMLを用いたVariation partitioningから明らかになり、在来植物の多様性は土地利用に関する歴史性が反映されていることが分かった。

地域の野生生物資源を利用することにより茶生産が維持され、また、その茶生産が貴重な半自然草地である茶草場を守っている事実が明らかになった。


日本生態学会