| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-305

秋川源流域ブナ沢における渓畔林の再生過程

李景仙(学芸大・地理),*池田史枝(横国大・情環),池田明彦(品川区),酒井昭(厚木清南高),小泉武栄(学芸大・地理)

1991年の台風12号は8月20日に多摩川支流、秋川の源流部にあたる三頭山に山地斜面崩壊、土石流を発生させ、シオジやサワグルミなどの渓畔林がよく発達していたブナ沢や三頭沢では河床堆積物を流失させた。今回の発表ではブナ沢裸地がリセットされた後のシオジ、サワグルミ稚樹の2004年時点での状況を明らかにし、いくつかの環境要因との関係からこの林の再生課程を推定することを目的とした。

ブナ沢と三頭沢合流点から570mまでの区間でシオジ、サワグルミ稚樹の分布数は均等ではなく、多数のエリアと少数のエリアが繰り返されていた。多数エリアは支流の合流点付近であり、稚樹の分布は明るさやギャップの大きさとほとんど関係がなかった。シオジが最も密集している堆積地は低位堆積地であり、平均礫径が小さく、含水率は高く、マトリクスはシルト質が多かった。これに対してサワグルミの稚樹が密集している堆積地は高位堆積地であり、平均礫径が大きく、含水率は低く、マトリクスは砂質が多かった。このことから、両種は砂礫とシルト・粘土の構成比により生育場所を棲み分けていると考えられた。

シオジの稚樹は低位面によく出現するという立地の関係から、数年単位の攪乱を受けやすく、その都度ごく少数の個体が残され、再び作り出される裸地的環境には実生が繰り返し出現していると考えられた。他方、サワグルミの稚樹は高位の堆積地に出現するため、シオジが打撃を受けるような数年単位の攪乱では被害を受けにくく、残存しやすいと考えられた。


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