| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-323

ミズナラ優占一斉林の樹幹淘汰期後半における10年間の動態

*持田幸良(横浜国大・教),佐野哲也(森林総研),船戸奏規,安藤友里子(横浜国大・教)

ミズナラが優占する二次林は、人間干渉の程度が小さいと考えられている奥山地域を中心に分布しており、放置すると自然度の高い林分へ移行するとされている(生物多様性国家戦略など)。しかし、この予測を裏付けるデータは乏しい。我々の研究グループでは薪炭林として利用され戦後放棄されたミズナラ優占林分の動態を解明するため、1999年から調査プロットを設置し追跡調査を行っている。今回は2009年の調査の結果をもとに10年間の動態を報告する。

調査プロット(25×145m:約0.36ha)は、山梨県八ヶ岳南東麓に位置する清里高原(標高1380m)の伐採後約55年経過した林分に設定した。この地域では、アカマツなど針葉樹種を一部残して20〜40年間隔で皆伐するという利用が戦前まで営まれ、火災による撹乱の形跡も見られた。調査地内の環境は均一ではなく、起伏の変化により表層土壌の乾湿が大きく異なっている。適潤性黒色土が覆う緩斜面と湿潤性黒色土に覆われた平坦地から成り、地下水位の高い場所の一部では湿原が形成され泥炭層が見られる。2009年の夏から秋にかけて個体の生残、生存個体と新規加入個体のDBHと樹高を測定した(樹高>1.3m)。

林分全体のBAは増加したものの、個体密度は減少した。アカマツやミヤマザクラ等の高木種やズミなど他の耐陰性の弱い低木、亜高木種が多く枯死した一方で、ミズナラの生存率が高かったため、ミズナラの相対優占度が上昇した。新規加入個体(10年間で1.3m以上に達した個体)は全体的に少なく、湿地を除いた閉鎖林分ではほとんど見られなかった。これらのことより調査した林分はまだ樹幹淘汰期(Stem exclusion stage)の後半にあると考えられ、耐陰性の弱い林冠木の枯死が後継木の侵入や成長量増加につながるのか、今後の動態が注目される。


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